スティーヴン・ミルハウザー 柴田元幸訳
ミルハウザーの本は何冊か買ったが、読み通したのはこの本が最初だ。
どうして読み通すのが難しいかというと、文章が濃密だということだろう。
うまくそのリズムに入り損ねると読めない。
しかし嵌ってしまうと脱けられない。
柴田元幸は「訳者あとがき」でこう言っている。
ミルハウザーを好きになることは、吸血鬼に噛まれることに似ていて、一旦その魔法に感染してしまったら、健康を取り戻すことは不可能に近い。
ようやく、というか、残念ながら、嵌りましたね。
好きになりました。
日常を乗り越えて特殊な世界に行ってしまう人や物についての短編小説。
特殊なことであり、それはなにかの比喩に見えるのだが、決して比喩ではない。
つまり、かなり特殊な人間をめぐる物語が、かなり特殊な文章で語られているにもかかわらず、作者はあたかも、ほかに語るべき人間などまったくいないかのように、そしてあたかも、ほかに採るべき語り方など全くないかのように書いている。(「訳者あとがき」)
なにかの比喩で書かれた小説など、たぶんおもしろくない。
逆説的だが、特殊なことを特殊に書くから、たぶん普遍的になるのだろう。
12編からなる短篇集だが、私は遊園地が発展(と読んでいいのか分からないが)するところまで行ってしまう『パラダイス・パーク』がすごすぎると思った。
作りものが現実を超えてしまう。
それは表題作の『ナイフ投げ師』や『新自動人形劇場』、それに百貨店が行くところまで行ってしまう『協会の夢』も同じテーマだが、リアルと悪夢の境みたいなものが今の私にはとても興味深いのである。
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