『虎の尾を踏む男達』黒澤明監督
だいたい私は『勧進帳』をきちんと知らない。
きちんと知るタイミングを逸してここまで来てしまった。
私は『ドカベン』で思春期を過ごしたが、山田太郎を擁する明訓高校が初黒星を喫したのが弁慶高校という学校で、武蔵坊一馬や義経光、それに安宅やら富樫やらという脇役的選手が出てくる。
後に『勧進帳』のさわりを聞くたびに、9回裏に里中のストレートをはじき返した安宅の顔を思い出したものである。
で、『虎の尾を踏む男達』だが、『勧進帳』を知るのにはきっといちばんよいテキストだろう。
ここから歌舞伎やら能を知ればよいにちがいない。
大河内傳次郎の弁慶はかっこいい。だけど、セリフがわからないところがある。私が歌舞伎的な台詞回しを理解できていないのだ。
何よりかっこいいのは藤田進演ずる富樫の役である。
緊張感の中にユーモアとか余裕を忘れない男。
すぐいっぱいいっぱいになる私としては、富樫の上品で、かつ自然な表情を思い返したいものだ。
榎本健一もいいね。
だけどエノケンとエノケソについてばかり考えていたりして、じぶんの馬鹿さ加減にがっかりした。
それにしても、こういった『勧進帳』のような教養が失われてしまっていると、こういう映画は作りづらいだろうねえ。
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