ケルアック 青山南訳
昔、河出文庫でまったく読めなかった。
豊崎由美さんが新しく出た青山訳を絶賛していたので手に入れて読んでみた。
すっごくおもしろい。
車でアメリカを何度も何度も横断する話。それだけなのに。
ぶっ飛んだ、ほとんど気の狂った人物ディーンとそれに引きずられるようについていく語り手のサル。
読む進んでいくうちにディーンが変にまともに思えてきて、常識的な生活をしていて彼を批判する奴らの方が異常に思えてくる。
ロードを突っ走っているときは何もかもが美しい。
しかし立ち止まり「生活」が始まるとなにかが澱む。
だからまた突っ走りはじめる。
突っ走っているだけでは生きられない、ということをきちんと描いているから説得力がある。
ロードでの出会い、別れ。
あとくされがないのがかっこいい。
文体もかっこいい。
ひとつひとつの文章の間がかっとんでいて、詩に近い部分もある。
アメリカ横断の長い旅につき合っていくと、その文体がわたしの中に入り込んでくる。
どこもかっこいいんだけど、例としてこんなの。
ぐるりと曲がったポーチのあちこちでドアがひっきりなしに開いた。アメリカの夜のなかで悲しいドラマを演じる面々がしょっちゅう出たり入ったりしてみんながどこにいるのか確かめているのだった。そのうち、僕は一人で堤防まで歩いていった。泥の堤に座ってミシシッピ川をじっくり眺めたかったのだが、その代わり、金網に鼻を押しつけて川を見ることしかできなかった。人間を川から切り離していったい何が得られると思っているのか?「お役所の仕事よ!」オールド・ブルは言う。カフカを膝にのせて座っている。ランプが上で燃えている。鼻を鳴らす。スッファン。やつの古い家がきしむ。モンタナ州から流れてきた丸太が夜の大きな黒い川のなかで転がる。「官僚どものお役所仕事よ。それと、組合だ!どうしようもない組合!」しかし、黒い笑いはきっとまた轟くのだ。
読み進めていると、アメリカの地理についても勉強になる。
「アメリカ横断ウルトラクイズ」で出てきた街が懐かしい。
メキシコにも行ってみたいものだ。
スケールは小さいが、車をぶっ飛ばして日本横断でもまずはしたくなる。
むりだろうな。
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