『服従』
ミシェル・ウエルベック 河出書房新社
【あらすじ(ネタバレ)】
ユイスマンスの研究者である「ぼく」はパリの大学で教授を務めている。
女子学生と寝ては別れている。
前回の2017年の大統領選挙で「いよいよ右傾化を強めていく国で左翼の大統領が選ばれた」。
2022年(小説内の現在)の大統領選挙の第一回投票では 国民戦線34.1% 社会党 21.9% イスラーム同胞団 22.3%となって決選投票が行われることとなった。
決選投票では中道、左派が野合して「拡大共和戦線」を立ち上げ、イスラーム同胞党の候補者を支持することとなった。
その結果イスラーム同胞団の政権が生まれる。
イスラームではない「ぼく」は大学を追われるのだが、新しい学長からイスラームになれば大学に戻ってよいと言われる。
イスラームは一夫多妻制で「あなたは問題なく三人の妻をめとることができますよ」と言われてその気になる。
まず、この小説ではユイスマンスという作家が重要な役割を持っているのだが、私はユイスマンスの名前も知らなかった。
かつてウィリアム・ブレイクを知らなくても大江健三郎の『新しい人よ、目覚めよ』をむりやり読んだので、この本もとにかく読んでみた。
まあ知ってる方が面白いに違いないので、ユイスマンスさんはこれからぼちぼち読むことにします。
ユイスマンスさんについては松岡正剛さんの千夜千冊でも触れてられている。
990夜『さかしま』ジョリ・カルル・ユイスマンス|松岡正剛の千夜千冊
政治的なものから距離をとる主人公はまるで外国人のようだ。
大統領選挙をめぐって市街戦やら暴動などが続発するのを他人事のように見ている。
イスラームの大統領が生まれてからはフランス全体はそれを静かに受容していっているように見える。
それと同じように、というかもっとイスラームを受け入れていく主人公。
しかし受け入れないのであれば戦い続けろというのだろうか。
解説の佐藤優さんはこう言う。
『服従』を読むと、人間の自己同一性を保つにあたって、知識や教養がいかに脆いものであるかということがわかる。それに対して、イスラームが想定する超越神は強いのである。
日本でイスラームが天下を取るのはだいぶ先かもしれない。
しかし、神道国家になったりするのは比較的近いのかもしれない気はする。
イスラームを憲法改正に入れ替えると日本でも充分に書ける話ではなかろうか。
実在する人物がどんどん出てくる。マリーヌ・ル・ペンとか今話題の人も出てきます。
このひとなんか未来でめちゃくちゃ言われている。
イスラームの大統領を選ぶのと引き替えに、中道であるバイルーが首相になるということについて。
タヌールは熱中して話を続けた。
「バイルーの素晴らしいところ、彼でなければならない理由は、彼が掛け値なしに頭が悪く、その政治的計画が、ずっと前から、なんとしてでも『最高官職』に就きたい、という個人的な欲望に限られていることです。自分自身の考えを持ったことなど微塵もなければ持とうと考えたこともなく、その点でも、やはりかなりまれな人材です。(後略)」
バイルーさんはこんな人。
https://ja.wikipedia.org/wiki/フランソワ・バイル
こんなこと日本でもできるのだろうか。
できていいと思う。