ブレイディみかこ みすず書房
著者は英国の無料託児所、別名「底辺託児所」で働く、保育士・ライター・コラムニストです。
年齢以外、あまりに自分と境遇が離れているので読めるかなあ?という疑問がありました。
しかし、自分の無知を思い知らされる本で、かつ、とてつもなくおもしろい。
「底辺の人たち」は英国政治の動きに翻弄されます。
ブレイディさんによれば、サッチャーは多くのブルーカラー労働者たちを失業者にしました。
そして、金だけ与えて「国畜」として飼い続けました。
労働党のトニー・ブレアは無職者に生活保護を与え続け、黙らせていました。
続く保守党政権は、生活保護受給者の締め付けを派手に行うことによって支持率を維持しようとしました。
その緊縮政策によって、下層の人々を引き上げるための制度や施設への投資が大幅カットされてしまいました。
今の英国で起こっているのは、富者と貧者の物理的な分離。
同じ国なのに、互いの層は姿を見ることもありません。
「パラレルワールド」というほどに格差が広がってしまっている状況。
そして、その影響をまともに受けるのは子どもたちです。
ドラッグや酒に溺れる母親たち。
外国からやって来て、上昇志向をもっている母親たち。
その子どもたちは、その生い立ちもあって時にはおそろしく暴力的だったり、排他的だったりします。
だけど、ブレイディさんはそんな親子たちの多様性を愛おしむように描いていきます。
つらくなる場面でも、決してユーモアを手放さないのがすごい。
さて、この本の話は遠い国の話、なのでしょうか?
わが国のパラレルワールドの存在を、私が気づいていないだけなのかもしれません。