『東京島』桐野夏生(新潮文庫)
桐野夏生の小説を読むのはこれが初めてだ。谷崎潤一郎賞を取ったのは知っていたし、孤島に女一人と男が数十人というシチュエーションの小説だということも知っていた。
どちらかというと谷崎賞を取ったからというよりは、「孤島には31人の男とたった1人の女」(文庫版帯)という状況があまりにエロく、正直言ってやらしい興味が優先して手に取った。
文章は私の知っているところでは村上龍に似ているのかもしれない(最近の村上の小説は読んでいないけれど、少なくとも『イン・ザ・ミソスープ』あたりと)。
描写は的確である。
前置きもなく、いきなり「孤島には・・・」という状況から始まる。
やらしい興味を持って読む人間には望ましい。
しかしすぐ気分が悪くなってくる。
孤島に置かれた者の描写があまりにもリアルで、その結果、自分のあさましい面を見せつけられているからだ。
当然この状況であればゆくゆくひどいことになるのに決まっている。
都会でかっこよく振る舞っている人(それは自分でもある)が露骨に本性を出していく。
大昔に読んだ『蝿の王』を思い出す。
気が滅入る。
桐野は島の人間のうち、女性の主人公清子をはじめとした何人かをひたすら描写していくが、描写しきることによって気持ち悪さが消えていく。
文庫本の解説にも「新たな創世記」とあるが、物語は神話化されていき、登場人物が神話の登場人物となっていく。
暴力が物語を支配するわけではなく、むしろ宗教やユーモアが満ちてくる。
図式的に神話を当てはめたわけではない。
極限状態にある卑小な人間をひたすら描写し続けると神話化される。
このあたりも村上龍の小説とよく似ている。
したがって残念なことにこの小説はあまりエロくはない。
いったいどこへ行ってしまうのだろう、と途中からこの世界に入り込まざるを得なくなる。
最後はきちんと結末に導いてくれる。
オチがない方がきっと純文学っぽいのだろうけれど、ここまで書ききらないとこの物語は終わらなかった。
とりあえずサバイバルの勉強はひととおりしておくべきである、と強く思った。
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