マリオ・バルガス=リョサ 野谷文昭訳
とにかくおもしろくて、ひたすら読んだ。
ラテンアメリカ文学といえば、ガルシア=マルケスなどのこってり風味の難解さがまず連想され、バルガス=リョサも同じかな、と思っていた。
この小説は読みやすい。それでいて知的で、ロマンティックで、下世話で、とにかくおもしろい。
①18歳の「僕」が32歳バツイチのフリア叔母さんと恋に落ちる話。
②「僕」が勤めるラジオの系列局にやってきた天才シナリオライターが作る「ラジオ劇場」。
この二つが交互に進んでいく。
どちらの話もおもしろいが、基本的に一話完結である「ラジオ劇場」のストーリーのどれもがぐいぐい惹きつける。
だから、ふつうの小説を読むよりもいろいろな物語を小鉢に出してもらった感じで、おなかがいっぱいになる。
「ラジオ劇場」はそれぞれの回が独立しているはずなのだが、そのうちその世界が壊れだし、混濁しはじめる。
その壊れ具合がまたおもしろい。
別の話が交互に進んでいくというと、すぐ連想されるのは村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』である。
この小説においては『世界の終り・・・』と違って①と②の話は関連性がないはずだが、①の中で②の話題が語られることにより、つながっていく。
シナリオライターの末路は少しさびしいけれど、「僕」の陰の部分なのかもしれない。
その意味ではやはり『世界の終り・・・』と同じ構造なのだろう。
とにかく読みやすくて、エンターテイメント的だけれども、読む楽しみを与えてくれる、ひじょうにお薦めの小説です。
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