井原裕
ディスカヴァー・トゥエンティワン
低速で非効率にしか仕事ができない私は、こういう仕事術の本が大好きです。
なんとか、あやかりたいので。
それにしたって「精神科医」は私の仕事とはまったくかけ離れた分野。
それに私はデジタルガジェット大好きなので、「デジタルに頼らない」って今どきどういうことなのさ、とタイトルから反発さえ覚えたわけです。
ある種反動的な本なのにちがいない。
Amazonでこの本を最初にたまたま見かけたときはそう思って別の本を検索し始めたのです。
しかしどうしようもなくこの本が気になってしまいました。
レビューもなく、中身もよくわからなかったのですが、また立ち戻って。
悩みに悩んで思い切ってKindle版を購入しました。
著者の井原さんは、医科大学病院の教授を務めていらっしゃいます。
医学部教授というと「白い巨塔」的な世界を想像してしまいます。
(本書では財前五郎と自分を比べてしまう部分が何度も出てきます。)1
オペを華やかに終えて、高級車で帰っていく、みたいな(妄想に近い)。
しかし、実際の大学教授は医師であり、教師であり、研究者であり、さらに管理職でもあるのです。
しかし、教授の場合、これらの一医師としての役割に加えて、組織の管理職でもあります。医局員と呼ばれる部下たちをマネージし、同時に、学長や病院長といった上位の管理監督者にマネージされる立場でもあります。業務のうちのかなりの割合を占めるのが、マネージャーとしての仕事です。
管理職であるということは、報告・連絡・相談は、仕事の中核的な部分を占めます。 上から降りてきた情報を下へ、下から上がってきた情報を上へ、というように、病院・医学部上層部と、現場の医師(医局員)との橋渡しをしなければなりません。
まさに会社の管理職。
これを医師と教師と研究者という仕事をきちんと勤めながらこなしていくのですから、まったくすごい。
適切な仕事術がないと、クリアできそうもありません。
著者がこの本で説明する仕事術=仕事の管理方法は大きく分けて三つあります。
■ ①「アイデアはすべて5秒以内に手帳に記すこと」(発想の管理)
■ ②「必要な書類の9割を 30 秒以内に机上に取り出せるようにすること」(書類の管理
■ ③「時間管理の中心に睡眠リズムを置くこと」(時間の管理)
②も③も役に立ちます。
しかしいちばん影響されたのは①です。
これまで記事を何本も書いてきましたが、人並み外れて記憶容量の少ない私はどうやってメモをとっていけばよいのか。
思い起こせば、小学生の頃からそんなことばかり考えていた気がします。
もちろん昔はいろいろなメモ帳や鉛筆を持ち歩いたものでしたが、長続きせず。
スマフォが普及し、Apple Watchなんてものまで出回り、音声入力も実用的になってきました。
デジタルガジェットで記録をとると、なにより検索が簡単。
そう思ってデジタルメモをがんばってきたのですが、結果的にいつも大事なメモは取れていない。
井原さんは「一日中、一年中、どんな場所にも手帳を持ち歩いて」いるそうです。
A6ノートにペンを挟んで持ち歩き、2、3週間で使い切るのだそうです。
ペンを挟む、しかも、今日書くところに挟んでおく というのも、大切なポイントです。 発想が浮かんでからメモを取るまでの時間を最小化するには、この方法が一番です。発想が浮かんでから、ペンを探していてはもう遅い。ともかく、直ちに書き込む。タイムラグは5秒を切るくらいでないといけません。
電子手帳や携帯用コンピュータは、この点では問題外です。 思いついてから、記録までの時間がかかりすぎます。 カバンから取り出す時間、立ち上げに要する時間、入力の手間、こんなことに 10 秒以上もかけているようでは、話になりません。
まったくそのとおりで、スマートフォンに記録するのはそれなりに時間がかかってしまいます。
鈴虫の脳しか持たない私は、その時間で記録する内容を忘れてしまう。
そして時間がかかると思うから、あきらめてしまう。
井原さんは紙の手帳に書きこんで終わりにしているわけではありません。
私の場合、永久保存版として手帳を書いているわけではない。記載内容はすぐに処理すべき案件ばかりですから、 2、3日以内に処理して、直ちに二重線で削除します。 記録として残すべき重要事項は、自分のコンピュータに転記します。
デジタルメモでも、それを生かすフローが構築されていないとメモした意味がなくなる、というのは先日、痛切に感じたことでした。
紙のメモを短期記憶媒体として利用して、検索可能な他の媒体に転記していけばいいのです。
そして、いちばん目を開かされたのはここ。
ここまで「アイデア」とか「発想」だとかいういい方をしてきましたが、 それらが高度に知的なことを意味していないことは強調しておかなければなりません。
メモというと、つい天才的なインスピレーションに基づいた詩の断片とか、新しい打法を思いついた、といったことを書き留めるというイメージがあります。
しかし、むしろ日々の暮らしや仕事を少しでも改善するヒントみたいなものを思いついたら書き留めておく、程度のことでいいのです。
気楽になったなあ。
デジタルには頼らないけど、デジタルはきちんと押さえている。
今までなんでもデジタルでいこうとしていた自分にとっていろいろ反省させられた一冊でした。
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