『こんなに近く、こんなに遠く』レザ・ミル・キャリミ監督
BSでやっていたイラン映画。あらすじは一応書くけど苦手かつ適当です。
イラン映画というと、キアロスタミ監督の映画を見たことがある。
『友だちのうちはどこ?』だとか『桜桃の味』。
あとはマジッド・マジディ監督の『運動靴と赤い金魚』(監督の名前についてはまったく知らなかったが)。
どれもおもしろいし、子供が出てくる映画はかわいかったりして、いい映画であったと思うが、やっぱりイランはイラン、という感じだった。
私の生きている空間とはまた別の世界の話であり、ファンタジーである、という感覚。
しかし、この映画は違った。
日本とイランでも抱えている問題は同じだ。
主人公はテヘランの脳外科医。
超有名人でテレビにも出てしまう。
私の持っているイメージのイラン人ではない。びしっとスーツを着て、縁なし眼鏡をして、落ち着いた口調で話す。
いけている中年医師である。
エグゼクティブ。
メルセデスに乗っているし、ハンズフリーで電話しているし、馬券を買いまくっているし。
使っているPCはマックブック。
だいたいテヘランの高速道路ってすごく車が多いんだなあ。
4車線くらいあるのにびっちり車が走っている。
それなのにウィンカーも出さずに車線変更しているし。
などと見ている間に、イランの話なのか日本の話なのかアメリカの話なのか分からなくなってくる。
主人公は家庭を顧みないで生きていて、後妻は男と勝手に旅行に行ってしまうなどなどで、孤独であるらしい。
そんな中、主人公の息子が脳の病気で、余命1ヶ月と言うことが分かる。
息子は天体観測大会があって砂漠に行ってしまった。
彼のために買った天体望遠鏡を届けにメルセデスで砂漠に向かう。
ここからロードムービーになる。
砂漠はすごい。
乾いている。
しかし、こんな中で見る星はきっとすごいのだろう。
バイクが故障して困っているハジ(「経験者」ということらしい。「長老」というには若いので、学識を持つ人間ということか)を拾い、住んでいる村まで送り届ける。
天文学の話になって、ハジは昔の天文学者は砂嵐で人やラクダが埋まってしまったときに星の声を聞いて「そこだ」と指をさすのさ、と言う。
主人公は聞き流すが。
息子が滞在するはずの村に着いたが、砂嵐の予報が出たため、天体観測大会の場所はそこから先へすでに移動していた。
その村でかつて主人公が大学で教えた女医と出会う(主人公は覚えていない)。
この女医がかわいい。
鶴田真由に似ている。
主人公は息子を救えないことに焦る。
神が助けてくれる、という女医を罵倒し、ついでに神を罵倒する。
主人公は息子を追いかけてメルセデスを走らせる。
しかし砂漠の真ん中でガス欠となる。
途中で予備に買っておいたガソリンは実は水であった。
ガソリンを高値で売りつけたじいさんにだまされてた。
このへんからホラームービーになる。
携帯がほとんど通じない場所。
主人公は歩いて脱出を試みるが、あまりの暑さに失敗し、車に戻り、休む。
寝ている間にものすごい砂嵐がやってきて、メルセデスを完全に埋めてしまう。
窓を開けると砂が車内に入り込んできた。
服を挟み込んで砂を食い止める。
携帯に息子から電話がかかってくるが、電波の状況が悪く会話ができない。
車のバッテリーは切れて、真っ暗になる。
持っていたビデオカメラを動かそうとするが、衰弱した主人公は操作を誤りカメラを落とす。
カメラは再生を始め、しかも逆回しに再生していく。
息子の映像がどんどん幼いものになっていく。
このあたりは『ニューシネマ・パラダイス』っぽい。
もう終わり、と思ったときに息子がサンルーフをこじ開けて助けてくれる。
神(息子)が地上の人間(父)に手を伸ばすようなショットで終わる。
ロードムービーまでの部分がいちばん面白い。
テヘランの都市の風景、砂漠の風景。
ここを走ることを少しだけ想像したりする自分。
人々の家の描写。
主人公が追いつめられていき、死にいちばん近づき、そして神に助けられる部分がいちばんのキモなのだろうが、それを素直に受け入れることが出来ない。
そんなに簡単に救われていいのかね(もちろん息子がこのあとたぶん死ぬことになるとはいえ、これは「救われた」と言ってよいのではないか?)。
例えば遠藤周作の『沈黙』の神は、まったく助けてくれなかったよ。
もちろん砂漠によって追いつめられていく描写は、そのあと用意された救いを納得させるには充分なものなのだが。
いずれにせよ、最初に言ったように私が悩んでいることと地続きの悩みを、全く別の角度から追究している。
そのやり方はすばらしいし、驚く。
むしろ宗教を生活様式として持たない私だからこそ、違和感を持ってしまうのか?宗教についてはもう少し考えないといけない。
だけど、主人公が救われなかったら私はもっと救われなかったかもなあ。
ということで、映画としてはよしとしよう。