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『橋本治という行き方』で読書について考えてみる

『橋本治という行き方』橋本治
ここ二ヶ月ほど、本を読むことができなかった。ばたばたしていたせいもあるし、暑かったせいもある。

ばたばたしていたというのは、急遽車を買い換えることになり、その選定のためにカタログやらをずっと読んでいなくてはいけなかった、ということが大きい。

暑かったのは周知のとおりです。

だけど、別に暑くったってエアコンの効いた部屋にいるんだし、ずうっと車のことばかり考えていたわけではないのだから、もちろん本を読める時間はあった。

その間、ずうっと本を読まなくてはいけない、という焦燥感に駆り立てられ、何冊かの本を手にとっては置き、ということをくりかえしていたのだった。

で、ようやく読書のリハビリとして、橋本治が雑誌に連載していた短い論考みたいなものを集めたこの本を読んだのだが、そのなかで読書について書かれている部分は、なんか気楽にさせてくれましたねえ。

「本」というものは、「他人の世界観を目の前にして、それを理解するために自身の世界観を修正する」というような、とんでもなくめんどくさいものでもある。「学ぼう」という意志、「自分はこれを学ばなければならない」と思う謙虚さがなければ、「本を読む」ということは可能にならない。「本を読む」には、そういう厄介さが中心にある。

だから私は、「読書の楽しみ」などと言われると、引いてしまう。私にとって「本を読む」は、「自分の知らない世界観につきあう」で、「それを学ぶ」だから、とんでもなくしんどい。(P204)

確かに、本を読むことがとにかくしんどくなるときがある。

気楽なものを読み飛ばせばいいや、と思ってもなかなかそれができない。

私自身も読書に対して変にストイックな部分があって、準備もなく気分も乗らないのにそんなに気楽に本に飛び込んでいいのかよ、という気持ちがいつもある。

それがなぜなのか、ずっとうまく言葉にできなかったのだけれど、「自分の知らない世界観につきあう」しんどさだったと考えるとわかりやすい。

読書というのはたぶん一旦自分を捨てて相手のペースにあわせて進めていかなければ行けない作業だけれど、それって私にとってはそんなに簡単な作業じゃないからなかなか踏ん切れないのだな、と。

ということで、本を読めないときがあっても、それはそれでよしとしよう。

学ばなければならないときに読めばいいのだ。

この本のテーマのひとつは「教養」とは何か。

教養って必要なのかということを繰り返し考えている。

結論としては教養は必要だけど、それを絶対視するのはおかしいよね、ということみたいだ。いろんな比喩で書かれているのをいくつか抜き書き。

 私は、「教養」というものを「料理の材料」と思って、大学というところを、「ちゃんとした料理の仕方を教えるところ」と思っていた--入ってから、「そう思わないと意味はないな」と思うようになった。それ以外に考えようがないのだが、どうも多くの人はそう思っていないらしい。「教養」というものを「調理された料理」と思っていて、大学というところを「料理を食べるところ」くらいにしか思っていない人が、いくらでもいる。(p108)

 私は「教養」というものを「材料」としか思っていないし、「教養体系」というものを、「材料を売っているバザール」としか思っていない。「そこになければ別のバザールに行く」と思っているので、別に「一つの教養体系」を絶対視していない。基本となるのは、それを必要とするこちらにあると思っていて、私の頭の中は「自分=一、教養体系=いろんなものがバラバラ」である。(p110)
 教養というものは、別に万巻の書を読まなければ身につかないものではない。必要なのは、所詮「何冊かの本」だ。何冊かのほんの一冊一冊を納得のいくまで読み込まなければ、「教養」を「教養」たらしめる構造を理解出来ない。(p100)

私はパソコンにソフトをインストールという行為自体が結構好きだ。

使いそうもないソフトをインストールすることで、私のパソコンがひとつおりこうになったような気がする。

読書という行為も自分へのインストールとして考えてきたふしがある。

本を読むことで一般教養的なもののレベルが上がる、と。

追い立てられるように本を読んできたひとつにはそういう指向があった。
しかし、橋本治はそういう考え方を否定する。

むしろ、必要なのは自分がどうやって情報を処理をして、アウトプット出来るか、その枠組みを作る能力を持つことでしょ、と。

ソフト(教養)は必要になったときにその都度インストールすればいいじゃないか。

きちんと「何冊かの本」を読みこなせることができるのであれば、読んでいない本がいかにたくさんあろうと全く恐るるに足らないよ、と言ってくれているのだ。

私の読書への変な強迫観念がすっと落ちた気がした。

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