布施英利 NHK出版
今年、東京都美術館で「没後50年 藤田嗣治展」を見ました。
若い頃から晩年までの絵がずらっと並んでいるのは壮観でした。
統一感があるようなないような、とても奇妙なもの。
作風は変化し続けています。
社会に対するスタンスも、明らかに変わり続けました。
名前や国籍すら変わりました。
「藤田嗣治」という日本人として生まれ、「レオナール・フジタ」というフランス人として亡くなったのです。
「藤田嗣治がわかれば絵画がわかる」というのは大げさなタイトルだと思いました。
しかし、布施さんは近代日本最大の画家として「フジタ(と本書では呼びます)」を評価します。
フジタを「鏡」「線」「色彩」という三つのキーワードで読み解いていくことで絵画の秘密を探っていきます。
フジタは自画像をよく描きました。
自画像を描くということは「鏡」を見ながら描くということ。
そのように描かれた自画像の視線は、その絵を観る私たちの視線とぶつかります。
フジタの若い頃の自画像は、普通に私たちの視線とぶつかるように描かれています。
しかし、晩年の自画像は宙空を見つめています。
「藤田の後半生は鏡を離れて夢へと行ってしまった」と布施さんは言います。
「色彩」では画家が色をいかに計算して置いていくかなど、絵の見方が一段深まる本になっています。
もちろん、フジタ自身の生きざまにも布施さんは触れていきます。
戦前フランスでおかっぱ頭にちょび髭というキャラクター設定で名を上げたフジタ。
戦争中戦意高揚の絵を描き続けたフジタ。
晩年、フランスに帰化しキリスト教徒として死んでいったフジタ。
主体というものを持たず、社会や時代を「ただ鏡のように映し続けた」生き方でした。
しかしその生き方こそが、フジタを偉大な芸術家としているのだというのです。
どんなときでも自分を曲げない人物が偉い、という考え方があらゆるメディア、教育によって私たちに刷り込まれています。
「自分」よりも芸術に全てを優先させたフジタは、やはり近代日本最大の画家なのです。
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