駒井稔 而立書房
駒井さんは光文社古典新訳文庫を立ちあげた編集者。
この本では駒井さんが光文社に入社してから、古典新訳文庫を立ちあげて成功するまでを描きます。
実はあまり期待せずに読み始めたのです。
成功についての自慢話が書いてありそうだから。
しかしそんなことはありませんでした。
もちろん古典新訳文庫が成功するまでのさまざまな苦労や、ポイントは描かれています。
ただそれよりも、私より上に属する世代である駒井さんの若い頃の話につい惹きこまれて、一日で読み終わってしまいました。
もともと読書好きだった駒井さんは、書籍の編集がしたくて光文社に入社しました。
駒井さんは広告部、営業職を経て1981年、25歳で「週刊宝石」に配属されます。
以後16年間週刊宝石というある意味の戦場の第一線で働きます。
週刊宝石といえば「あなたのオッパイ見せてくれませんか」や「処女探し」などの扇情的企画が有名。
駒井さんも団鬼六の指示で女性に縛られ、グラビアに掲載されたそうです。
しかし時代はベルリンの壁の崩壊などの大きな曲がり角に直面していきます。
駒井さんはそんな時代の中、吸い寄せられるように古典を再読し始めます。
週刊宝石の編集室で「OLの性」の校正刷りをチェックする合間に『アンナ・カレーニナ』『収容所群島』『魔の山』などを読む日々。
このあたり、とってもおもしろい。
実生活と本が入り乱れるのは大江健三郎の小説のよう。
当時の駒井さんの生活自体がある意味小説のようなのです。
若い頃の夢を実現させるべく、企画を上げて古典新訳文庫を実現させていく道筋は苦労の連続です。
しかしそれが苦労と思えないのは駒井さんたちが夢に向かっていくからなのでしょうか。
会社で働く者にとっては、読んでいて力を得る本でした。
私も新しい仕事を少しがんばってみようかな、と思います。
タイトルは当時の光文社の社長が、古典新訳文庫のキャッチフレーズの例として口に出して、採用されたものです。
キャッチーですよね。