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『「右翼」の戦後史』

安田浩一 講談社現代新書

「右翼」といわれても、漠然としたイメージしか持っていません。

私が思いつくのは「街宣車」とか「ヘイトスピーチ」。

あとは三島由紀夫。

この本を読むと、世代によって右翼のイメージがかなり違うのかもしれないと思うようになりました。

「戦後史」というタイトルですが、右翼の歴史を戦前の「血盟団事件」から現在に至るまで、綿密な取材に基づいて分かりやすく説明してくれます。

「右翼」と呼ばれる運動がずっと変わらないものではなく、時代によって大きく変化してきたことがわかります。

日本初の右翼団体である「玄洋社」は明治の反政府運動である自由民権運動の流れから生まれた組織でした。

玄洋社は「大アジア主義」を掲げ、現在のネット右翼のような「嫌韓」「嫌中」というスタンスとは全く違うものでした。

右翼はそのあと「血盟団事件」「二・二六事件」とともに「暴力」と結びつき、そして体制に取り込まれていくこととなります。

敗戦直後、戦前の右翼は壊滅したようにみえましたが「終戦を3年経たあたりで、眠っていた戦前は右翼の生き残りがゆるりと動き出」します。

彼らは「親米」「反共」を旗印とします。

なぜ親米なのか?

なぜ、戦時中まで「鬼畜米英」の先頭に立ち、欧米列強に抗していた右翼が、こうも簡単に「親米」へと変節したのであろうか。前章に登場した「大日本愛国党九州連合会」の生野は「現実問題として、日本は独自の力だけで国を守ることはできません。本当の意味での自立を果たすまでは米国を利用せざるを得ない。それまでに、しっかり軍備を固めましょう、というのが赤尾先生の時代から続く我々の主張です」と私に説明した。

戦後の右翼は、天皇を否定する社会主義・共産主義に対抗するために、アメリカをぎりぎりのところで「味方」だと判断したのだ、と安田さんは説明します。

しかし、「それは危うい綱渡りではないか?」と疑問を呈します。

右翼の思惑はともかく日本は結果的に米国の世界戦略にすっぽり埋め込まれている。駐留する米軍の基地問題を考えても、土地を提供するばかりか、人件費から水道光熱費までを「思いやり予算」で賄い、日米地位協定で米軍人に必要以上の厚遇を与えた。米国の他の同盟国を見渡しても突出したものだ。「利用」されているのは、まさに日本の側ではないのか。

戦後、国家権力は共産主義勢力に対して物理的に対抗できる「暴力装置」を必要としていました。

国家権力は右翼を利用していき、そこに暴力団を加えていきます。

「政・暴・右」のトライアングルができていきます。

安保闘争、学生運動、新右翼の登場を経て、宗教右派や日本会議、そしてネット右翼が現れる現代に至ります。

「ネトウヨ」が登場した当時は「右翼(街宣右翼)」と「ネトウヨ」には距離があったといいます。

しかし、今やその距離はなくなっている、と安田さんはいいます。

そう、かつて右翼とネトウヨとの間に厳然と存在した垣根は、もはやないに等しい。共闘するばかりか、実際には右翼とネトウヨの双方を軸足とするような「相互乗り入れ」のメンバーも存在する。差別と排他の気分に満ち満ちた極右の空気は、右派陣営をも丸ごと飲み込んでしまっているのだ。

右翼の歴史を見てくると、かつての右翼と現代の右翼が同じ思想を持っているとは思えなくなってきます。

やはり、たぶん、違うのです。

安田さんは「おわりに」で、こういいます。

右翼は社会の矛盾に向き合うことから、足場を固めたはずだ。市民社会やマイノリティを威嚇するだけの右翼など、あまりに惨めではないか。不公平、不平等への涙から生まれたはずの右翼が、日本社会を、地域を、人の営みを壊しているような現状が残念でならない。

いま、右翼はけっして〝異端〟とはいえない。政府の本音をストレートに伝えるだけの拡声器となっている。せめて在野に留まり権力と対峙する存在であるべきではないかと私は思う。

安田さんの声は、かつての右翼ならともかく、現代主流の右翼に届くのでしょうか?

右翼は戦後、権力側に寄り添い続けてきた以上、そこから離れる理由もないようにも思われます。

だけど、どういう歴史を経て現代の右翼になったのか、若い右翼の人には読んでもらいたいなあ。

もちろん、そうじゃない人にも。

とにかく情報量が多くて、事典みたいな本です。

ところで、最近「大江健三郎全小説」の刊行がスタートし、『政治少年死す──セヴンティーン第二部』が収録されました。

1960年に起きた社会党浅沼委員長刺殺事件をモデルにした、とされる小説です。

雑誌に掲載したあと、右翼の抗議によって一度も書籍化されなかったのでした。

ようやく読めるようになって、うれしい。

『「右翼」の戦後史』には、浅沼委員長を刺殺した山口二矢ももちろん出てきます。

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